彼に惚れてはいけません

憧れのパリ

―憧れのパリ―

「由衣、機内食そろそろ来るよ」

びっしょりと濡れた手を、吉野さんが握ってくれている。

今、空の上。


無事に休みが取れた私達は、憧れのパリへと向かっていた。

実は、私は飛行機の乗ったことがなかったのだ。

最初の浮き上がる感じにびっくりして悲鳴をあげてしまい、そこから気を失うかのような緊張感に包まれていた。


「もう大丈夫だよ。しかし、飛行機が怖いのにパリジェンヌに憧れていたとは知らなかった」

「だってぇ、あんなに怖いなんて知らなかった」

「あとは乗ってれば良いから。電車だと思えばいいよ」

「うん。ひゃぁっ!!」

時折、ジェットコースターのような急降下する感覚があり、そのたびにおかしな声が出る。

「やっぱり、由衣には俺しかだめだな」

頭を撫でられて、ものすごくキュンとした。

つり橋効果なのか。

このドキドキ、飛行機のドキドキなの?
吉野さんへのドキドキ?

「それにしても、世界一周するのかって思うくらいの荷物だったな」

「海外、初めてだからわからなかったの」

「それに、そのベタなTシャツ、俺的には最高だな」

吉野さんが指差した私のシャツには“I LOVE PARIS”と書かれていた。

“私は日本が好きです”と書かれたシャツを着て、日本を旅するフランス人のようなものだ。

「恥ずかしいかな」

「OKOK!」

いつも思う。
この楽観的な性格、好きだなって。

大丈夫大丈夫って吉野さんが言うと、本当に大丈夫な気がしてくるのが不思議。

この人となら、何でも乗り越えられる、って。

本気で思う。
大好きだよ、吉野さん。

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