彼に惚れてはいけません
ゴロンと横になり、雲を眺めた。
「不思議だな。日本からあんなにも飛行機乗って来たのに、空は同じだな」
「そうだね。不思議」
小さな雲がゆっくりと流れていく様子を見ながら、そっと手を繋いだ。
「最近、箱庭カフェ行ってないんだよな、俺」
「本当だね、一緒に行こうって話してたのに」
「俺の居場所はあそこだけだったんだよ。でも、由衣と会ってから、由衣が俺の居場所になった」
「嬉しい・・・・・・嬉しくて泣いちゃう」
吉野さんは泣け泣けと私の頭を揺らした。
「なぁ、由衣。どうして、俺だったの?」
「え?」
「由衣は若くてかわいいし、俺みたいな年上のバツ1じゃなくてもいくらでもいる。どうして俺だったんだろうって」
「ふふ。私にもわからない。でも、吉野さんと一緒にいると映画のヒロインになった気分になれる。ドキドキしてハラハラして、キュンキュンして。でも、すご~くほっとして、ずっと一緒にいたいなって思う。こんなことって今までの人生でなかったことなんだよね。理想の恋愛像みたいなのがありすぎて、無理したり背伸びして疲れたり、素直になれなかったり」
「ほほう。こんな俺が相手でも、映画のヒロインの気分になれるんだ」
「目じりのしわも好き。彫りの深い横顔も好き。いつものんきな顔でぼ~っとしてて、ほんわかしてて、自然体な所も好き」
「おう、そうか。そんなに好き好きって言われると、さすがの俺でも照れるよ」
顔を横に向けると、照れ臭そうに笑う吉野さんが空を見つめていた。
吉野さんの横顔の向こうには、映画で見た景色が広がっている。