彼に惚れてはいけません
「俺はさ、かっこつけてるわけでもなく、もう誰とも恋愛をするつもりはなかった。誰も好きにならないって思ったし、誰かを好きになって苦しい気持ちになるのは嫌だった。でも、由衣と一緒にいて全然苦しくなくて、むしろ楽しいし幸せだなって思って。ことごとく、俺は変えられた。お前に」
ゆっくり起き上がる吉野さん。
私も起き上がると、吉野さんはぎゅっと手を握り直す。
「道でキスするような男じゃなかったし、付き合う前にエッチしちゃうってこともなかった。ましてや、こんな昼間の公園でキスするなんて」
芝生の上に座ったまま、吉野さんの唇が近付いた。
パリ、第一回目のキスは、公園のど真ん中だった。
「恋人達の街だから、これくらいいっか」
「そうだね。いいよね。みんなしてるし」
辺りを見回すと、映画俳優のようなフランスの恋人達が、キスをしたり、抱き合ったりしていた。
「誰のことも信じられないとか言ってた俺がさ、今はお前のことかなり信じてるしな。絶対ずっとずっと俺のこと大好きなんだろうなって思える」
「私も信じてる」
クスッと笑った吉野さんは調子に乗って、濃厚なキスをした。
人生で最初で最後だと思う。
こんなに大勢の人がいる場所でキスをするなんて。
目を閉じるのがもったいなくて、目を開けたままキスをした。
吉野さんの高い鼻が当たる。
「俺じゃなくて、あの大聖堂見てるんだろ?」
と吉野さんは私の頬をつねる。
「バレた?」
そう言うと、吉野さんは手で私の目を押さえてキスをした。
木々の揺れる音、噴水の水の音、吉野さんの吐息が聞こえる。