彼に惚れてはいけません


「なぇ、今、俺のこと、おじさんって思っただろ。おじさん嫌いなの?」

「嫌いです。嘘つく人も嫌いです。よだれ垂らす人も嫌いです。ヒューグラントも海老蔵も嫌いです!!」

ムーランルージュのサントラは、一番の盛り上がりの曲がかかっていた。

この映画が好きで、昔の彼氏と何度も観ていたっけ。

「ヒューグラントって誰?海老蔵ってあの藤原紀香と噂のあった人?」

「それは、片岡愛之助さんです!」

「あぁ~、そうか。愛之助ね。で、今夜、OKだよね?」


怒っているのか呆れているのか、私はもう何も言えない状況で。
こんな意味不明な男性に会ったことがなかった。

「仕事6時頃には終わる?7時までには行けると思うから、俺のオススメの店、一緒に行こう。大事なボールペンのお礼、させてよ」

鞄から手帳を出し、その1枚をちぎって、店の名前と簡単な地図を書いてくれた。

「ここ、この店だから、迷ったら誰かに聞いて」

「行きませんよ」

「いや、君は来るね、きっと」

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