彼に惚れてはいけません

パリの思い出に浸りながら、オフィスに到着。

机の上のメモを読んでいると、声をかけられる。


「おはよう、佐々木」

「おはようございます。中村さん、いろいろ休んでる間すいませんでした。資料、代わりに作ってくれたんですね。助かりました」

中村さんは、取引先からの問い合わせの返事をしてくれたり、会議の資料を作ってくれたりして、私をフォローしてくれていた。


「何、お前・・・・・・フランス行ってたの?」

中村さんは私が持ってきたおみやげを見て、驚いた顔をした。

そういえば、行き先は言ってなかった。

「すげーことしたな!もしかして、男と行ったの?」

探るようなこの表情はもう慣れてるけど、何度見ても苦手。

「あのさ、今日時間ある?仕事終わってから」

「休んだ分、しっかり働きます」

「そうじゃなくて。飲みに付き合ってよ」

この手の誘いは、全部スルーしてきたんだけど、今回ばかりは仕事で迷惑かけたこともあり、すぐには断れない。

「時差ボケで、体調悪いので、後日でもいいですか」

「後日っていつ?お前、いつもそうやってはぐらかすだろ」

肩に手を乗せられたので、やんわりと逃げた。

吉野さんと出会う前から好きじゃなかったけど、今はもっと苦手というか・・・・・・

「迷惑かけたので、部署の人他にも誘って、飲みに行きましょうか」

「ちょ、待てよ」

出た。
キムタク風のこの口調。

「そういうんじゃなくて、ふたりで行きたいんだけど」

「ごめん。ふたりはちょっと」

中村さんの苦手なところは、ここまで言わせちゃうところ。

空気を読むとか、察するってことができないのか、わざとなのか。


< 161 / 180 >

この作品をシェア

pagetop