彼に惚れてはいけません
パリの思い出に浸りながら、オフィスに到着。
机の上のメモを読んでいると、声をかけられる。
「おはよう、佐々木」
「おはようございます。中村さん、いろいろ休んでる間すいませんでした。資料、代わりに作ってくれたんですね。助かりました」
中村さんは、取引先からの問い合わせの返事をしてくれたり、会議の資料を作ってくれたりして、私をフォローしてくれていた。
「何、お前・・・・・・フランス行ってたの?」
中村さんは私が持ってきたおみやげを見て、驚いた顔をした。
そういえば、行き先は言ってなかった。
「すげーことしたな!もしかして、男と行ったの?」
探るようなこの表情はもう慣れてるけど、何度見ても苦手。
「あのさ、今日時間ある?仕事終わってから」
「休んだ分、しっかり働きます」
「そうじゃなくて。飲みに付き合ってよ」
この手の誘いは、全部スルーしてきたんだけど、今回ばかりは仕事で迷惑かけたこともあり、すぐには断れない。
「時差ボケで、体調悪いので、後日でもいいですか」
「後日っていつ?お前、いつもそうやってはぐらかすだろ」
肩に手を乗せられたので、やんわりと逃げた。
吉野さんと出会う前から好きじゃなかったけど、今はもっと苦手というか・・・・・・
「迷惑かけたので、部署の人他にも誘って、飲みに行きましょうか」
「ちょ、待てよ」
出た。
キムタク風のこの口調。
「そういうんじゃなくて、ふたりで行きたいんだけど」
「ごめん。ふたりはちょっと」
中村さんの苦手なところは、ここまで言わせちゃうところ。
空気を読むとか、察するってことができないのか、わざとなのか。