彼に惚れてはいけません
紙に書かれた店の名前、箱庭カフェ&バー「セーヌ」
私のパリ好きを刺激する店の名前だった。
でも、私は行くべきではない。
だって、私こんなにも吉野さんのことが好きなんだもん。
ふたりで飲みに行ったりしたら、絶対に絶対に取り返しのつかないことになる。
この嘘つき謎男に、本当にハマっちゃうと思う。
「じゃ、そろそろ仕事に戻るよ。ボールペン、本当にありがとう!」
立ち上がった吉野さんは、ボールペンの先で、私の頭をコツンとした。
昔、高校時代に憧れていた塾の先生がよくやってくれたっけ。
胸キュンポイントだったなぁ。
「じゃね、由衣」
一度しか教えていない名前をすぐに覚えてしまうところも危険な男の特徴だ。
吉野和也。
38歳。
どんだけ年上なんだよぉ。
どんだけ、ドキドキさせるんだよぉ。
てか、私のハンカチ持っていったのも、また会う為の作戦??