彼に惚れてはいけません
「俺、どうして由衣をここに連れてきたのか、考えてたんだよ。もう恋愛なんてしないって思ってたのにさ。由衣に俺のこと知って欲しいっていう気持ちもあったし、由衣のことも救いたいって思った。ストレスなんて、自分を苦しめるだけなんだってこと、気付いて欲しかった。ここにいるとストレスなんて忘れられたんだよな、俺。細かいこと、どうでもいいやって思える場所だった。そこに、由衣も連れてきたかった。まぁ、簡単に言えば・・・・・・最初から好きになってたんだろうな」
じっと吉野さんを見つめて、真剣な声を聞いていて、涙が溢れていた。
私のこと、ずっと前からちゃんとわかってくれてた。
仕事や人間関係のストレスで疲れていた私を、救ってくれようとしてたんだね。
「泣いてんの?嬉しいの?」
「うん。そう」
「俺のこと好きなの?」
「うん、好きなの」
「素直でよろしい」
足先が当たる。
「今、俺すごい恐ろしいこと考えちゃった」
「え、何?」
「もし、あの朝、俺がボールペン忘れてなかったら・・・・・・って考えたら、ゾゾっとした」
「それ、ホラーより怖い!!あのまま会えないなんて、無理無理!!吉野さんのいない未来なんて私には考えられないもん」
「由衣も、最初から俺に気があったのか、もしかして」
「え?」
誤魔化すように視線をずらす私の顔をグイっと前に向ける。