彼に惚れてはいけません

今日も、爽やかな朝だ。

だいたいお客さんも毎日固定していて、挨拶をするわけじゃないけど顔や店を出る時間を覚えていたりする。

私の席は、予約をしていなくてもたいていあいている。
一番奥のU字型の深めの椅子。

目の前には、パリの風景画。
私が愛してやまない大好きな街、パリ。

いつか、一緒に行ってくれる素敵な男性はいないかなぁ。
と、窓の外を眺めると、スラリとしたひとりの男性が目に入る。

オフィス街から少し距離がある為、人通りはそんなに多くない。

ゆったりと歩くその後姿に、パリの男性が重なる。

って、どれだけパリに憧れているんだ、私は。

柔らかそうな髪が風に揺れて、時折空を見上げる男性。

“入ってこい、入ってこい”と、呪いをかけるように、彼にパワーを送る。

と、なんとその男性は、ふらっとこのカフェに入ってきた。

特別その男性に何か感情を抱いていたわけじゃなく、ただの暇つぶしのような行為だった。

店に入ってきた彼は、キョロキョロと店内を見回し、席を探す。

まだ顔は見えない。

“こっち向け!”と気を送ると、なんと彼はこちらを向いた。


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