彼に惚れてはいけません

「お疲れ様です」

「おう、佐々木。これ、ポスト入れといてくれる?」

4つ年上の先輩である中村亮司【なかむらりょうじ】が私に、封筒を渡す。

その封筒に貼られているポストイットに気付いて、中村さんを見ると、彼は片方の口角を上げて、キムタク風に笑った。

“飲みに行かない?下で待ってて”

頑なに、SNSの連絡先の交換を拒んでいるせいか、彼はポストイットを活用する。

私は指先で小さく×を作り、申し訳なさそうな顔で頭を下げた。

刑事ドラマに出てきそうな刑事の下っ端のイメージ。

かわいい顔をしているが、どこか要領が悪く、憎めない存在。
憎めないから嫌いではないが、男性としての魅力は感じない。


迷うこともなかった。

これが全てだ。


吉野和也さんとの約束の方が100000倍、大切だって思った。

これは行くしかない。


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