彼に惚れてはいけません
センスがセーヌに見えてしまう私は、パリ病なのか。
時計は6時半を過ぎた頃だった。
雨が降りそうなどんよりとした空を見上げ、私は先に店の中に入ろうとドアに手をかけた。
「いらっしゃい」
カフェバーのイメージとかけ離れた男性が、カウンターから私を迎えてくれた。
父親くらいの年齢だと思う。穏やかそうな笑顔が、仕事の疲れを吹き飛ばしてくれる。
「一番奥、どうぞ」
カウンターの他に、ボックス席が4つ。
パリの匂いは一切しないが、気持ちが落ち着く雰囲気は嫌いではなかった。
この座りやすいソファのような椅子も気に入った。
「あら、もしかして吉野さんのお相手の方かしら?」
奥から出てきたのは、男性より少し若いくらいの女性で、ふたりが夫婦なのだとすぐにわかるくらい雰囲気が似ていた。
「はい、そうです」
「やっぱりねぇ。さっき吉野さんから電話もらってね。若くて綺麗な人が行くから先にサラダを出しておいてって」
若くて、綺麗・・・・・・?
私のこと?