彼に惚れてはいけません

「目じりのしわフェチに、よだれフェチ、お手拭で顔拭くフェチ!もう俺から離れられないじゃん」

そんなことを言って、垂れ目の目がなくなるくらいに笑った後、咳払いをして、真剣な顔になる。

「由衣がそんな暴露をしてくれたから、俺も言う。あの朝、初めて会ったカフェで、由衣が起こしてくれて・・・・・・慌てて走って会社に向かっている途中で、落ち着いて思い出したんだ。由衣のことを。見知らぬ俺を起こしてくれるなんて、天使じゃないかなって。そう思って、俺は店に戻った。遅刻覚悟で、由衣にもう一度会いたくて戻った。でも、もう君はいなかった。だから、今日昼寝から起きた時に由衣がいて・・・・・・俺は夢なんじゃないかなって思った。というのも」

息をするのも忘れてしまうくらいの衝撃の事実だった。

あの朝、戻ってきてくれたんなんて。

「あれからさ、俺は何度か君に会ってたんだよ」

「え?どこで?」

「引かないでね。夢の中で、何度か君に会った」

赤面ってこういうことを言うんだろう。

顔から火が出ているんじゃないかと本気で心配するくらいに顔が熱い。

私が吉野さんのことを考えていた日々に、吉野さんも私の夢を見てくれていたってこと?

「引いた?」

「いいえ。ありがとうございます。大変嬉しく思います」

「はっはっはは。やっぱり変わった子だな。俺と合うと思うんだけど、どうだろう」

これは口説かれているんだろうか。

私は、聞こえていないフリをして、ワインを飲み、チーズを食べた。


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