彼に惚れてはいけません

「俺のこと、好きになるなよ。まぁ、オヤジだから、なるわけねぇか」

いちごシャーベットを口元につけたまま笑う吉野さんに、ときめきが止まらない。

でも、吉野さんの口から出るセリフは、私の気持ちをどんどん暗くしていく。

私に好意を持ってはくれているけど、そこから恋愛に発展するというわけではなさそうだし、彼女を作る気はない。

好きになったらだめなの?
私に会いたくて戻ってきてくれたのに?
どういうこと?


「マスター、じゃあまた来るね」

「今日は、箱庭しないのか?」

立ち上がった吉野さんは、上着を着て、カウンターの前でマスターと話す。

「この子に癒してもらったからもう大丈夫」

チラっと私を見て、吉野さんとマスターは頷き合う。

非常事態。
混乱中の由衣の心をどうしてくれるの?



「ごちそうさまです」

「ぜひ、また来てね。待ってるから」

奥さんの優しい一言に頭を下げ、店を出た。

肌寒く感じる春の夜。

「吉野さん、ごちそうさまでした」

「いやいや、これでボールペンのお礼が出来たかな。じゃあ、また」

ちょっと待って、ちょっと待って!!

あんな濃密な会話したのに、連絡先の交換もなく、このまま別れる気?


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