彼に惚れてはいけません

「こうしたいって思ってる?」

くるっと体を回されて、私は吉野さんの胸の中に抱きしめられていた。

違う。
もっと恥ずかしいこと考えてるよ、私。

「正直になれよ」

「じゃあ、キスしたいです」

生まれてから初めて口にした言葉だった。

自分からそんなこと言うなんて、本当に信じられなかったけど、吉野さんと出会い、吉野さんの話を聞いて、素直になるってことが自分自身を幸せにするってわかった。


「ミッション成功」

そう言って、吉野さんは私のあごを優しく指に乗せ、そっと唇を合わせた。

そっとそっと重なる唇は、ゆっくりと長く、ふたりを繋いでいた。


「今日はここまで。よく出来ました」

と頭を撫でてくれた。

そして、体を離し、自然と手を繋ぎ、駅の方向へと向かう。


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