彼に惚れてはいけません

「ハンカチを返したいから、また会える?」

照れ臭そうにそんなことを言う吉野さんがかわいい。

「はい。また会いたい」

「俺に、会いたいの?」

とまたニヤリと笑い、ごめんごめんと謝った。


駅のホームで別れる。

別の方向の電車に乗る私達は、連絡先の交換をしないまま別れた。

吉野さんのいう“自分を大事にする”ってことで言えば、正直に連絡先を聞くべきだった。

でも、約束してくれたから、いいんだ。


明後日の午後二時、吉野さんの会社のビルのあのパリ風カフェで会おうって。

満員電車の中なのに、鼻歌が止まらない。

佐々木由衣、私とんでもない人に恋をしちゃいました。



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