彼に惚れてはいけません
「何の、押し売りだ?」
やや冷たい視線で近付いてきた60代の男性。
明らかに社内で嫌われているであろうオーラが出ていて、かわいい事務員の女の子も眉をしかめた。
「空気清浄機かぁ。うちの会社はかわいい子がいるから空気も綺麗なんだよ。はっはっは」
このセクハラオヤジめ!
と事務員と目を合わせ、同じ気持ちであることを確認し合う。
目のクリクリした若い感じの良い女の子は、すいませんという顔をして、頭をぺこりと下げた。
「でも、あんたもなかなかかわいいねぇ。ちょっとお茶でも飲んでくかい?」
セクハラオヤジが大きな声でそんなことを言うもんだから、社内の男性が私に視線を向けた。
いえいえ。
たいしたことありませんから。
至って普通の女です。
「はい、大平部長!減点100ね」
背後から聞こえた聞き覚えのある声に、脳よりも先に体が反応していた。
その声の主が誰なのか察知した体は熱を帯び、顔が一瞬にして赤くなるのを感じた。
「おう、吉野!お前は厳しいな」
セクハラオヤジが嬉しそうに目を細めたその相手を、自分の目で確認・・・・・・
そこには、爽やかに佇む吉野和也さんがいた。
「すいません。うちのくそじじいが気分悪くなるようなこと言って」
「ぷぷぷ。吉野課長ったら」
事務員の女の子が、嬉しそうに笑う。
よだれを垂らしていた人とは思えない。
会社にいるからだろうか。シャキっとしていて…本当に素敵だと思った。
この人の社内でのキャラというか、そういうのも見えた気がした。
吉野さんが入ってきた瞬間から、この部屋の空気が柔らかくなった気がするもん。
黒のスーツ、黄色のネクタイ、かっこいい。