彼に惚れてはいけません
私はこの人とキスをしたんだ。
私の30センチ後ろに立つ吉野さんからは、ほのかにいい香りがした気がするけど、それが本当に吉野さんからなのか事務員の女の子からなのかわからなかった。
「いきなりすいません。私、空気清浄機の販売やレンタルなどの営業で回らせてもらっていまして」
と名刺を差し出すと、吉野さんは胸ポケットから名刺入れを出し、慣れた手つきで名刺を交換してくれた。
【総務兼営業課長 吉野和也】
「お詫びに話を聞こう。弥生、お茶会議室にお連れして」
弥生と呼ばれた彼女は、若干嬉しそうな顔をして、私を会議室へと通してくれた。
やよい?
下の名前呼びですか?
あぁ、吉野さん、私のこともいきなり下の名前で呼んだものね。
彼は、そういう人なんだ。