彼に惚れてはいけません
私はベージュのソファがふたつ向かい合っているお洒落な雰囲気の会議室へと足を踏み入れ、弥生ちゃんが冷たい麦茶を出してくれた。
「少々お待ち下さい」
扉がカチャンと閉まるのを確認して、私は自分の頬を両手で包んだ。
熱くなった頬を冷やそうと、麦茶のグラスを当てる。
来ちゃった。
吉野さんの会社に。
コンコン
ノックと同時に、私の胸が高鳴り、姿勢を正す。
現れたのは、貫禄のある男性で、吉野さんではなかった。
「お待たせしましたね。うちの吉野がどうしても話を聞いてくれって言うんで、少ししか時間がありませんがお話をお聞きしたいと思います」
名刺を交換し、目が飛び出そうになった。
その方は、吉野さんの会社の社長さんだった。
この仕事を長く続けているけれど、一度目の訪問で社長にお話ができる機会なんて、滅多にない。
社長にお茶を出しに来た弥生ちゃんに、社長が言った。
「吉野、呼んできて」
「はい!わかりました」