彼に惚れてはいけません
推定、5分程度の短い淡い恋だった。
私は、パリの風景画を見つめ、いつか出会う運命の男性を想う。
むなしいと思われるかもしれないが、こうしているといつか出会える気がしている。
私は、オフィス向けの空気清浄機のレンタルや、自動おしぼり機の販売などの会社の営業の仕事をしている。
4年目にして、大きな企業を回る機会が増え、日々イイ男を見ては、夢を見ているダメ女子。
ブブブブブ ブブブブブブ
隣のテーブルの上で、スマホが震えている。
視力がそんなに良くないのが、私の目に映ったのは、目覚まし時計のアプリらしい画面。
ほほう。
この彫りの深い男、8時半に起きなきゃ遅刻するんだな?
面白いからこのままにしておこうっと。
どうせ、飲みすぎた翌日で二日酔いか何かなんだろう。
それか、若い女と朝まで遊んでたんだ、きっと。
このストライプシャツとピンクのネクタイは、女遊びが好きな証拠だ。
いや、待てよ。
スマホにつけられたカバーをよく見ると、猫のような耳がついている。
この男、猫好き?
いやいや、待て。
この赤い猫、どこかで見たことがある。
裏面を見ないことには断定できないが、もしかして今大流行の妖怪ウォッチの猫ではないか。
ということは、この男、結婚して子供がいるのか。
それなら、夜遊びではなく、小さな赤ちゃんがいて、夜泣きで寝不足なのかもしれない。
そう思って見てみると、子煩悩そうな優しい寝顔ではないか。
このまま起こさないで、この男が会社で居場所がなくなったら、かわいい子供が悲しむじゃないか。