彼に惚れてはいけません

ドキドキする私は、麦茶を半分以上も飲んでしまった。

「失礼します」

現れた吉野さんは、完璧なポーカーフェイスで、私達が知り合いだなんてことは、きっと誰も気付かない。

「社長、大平部長がまたやらかしましてね。本当に申し訳ない」

吉野さんは、私に頭を下げ、社長もすまなかったと謝ってくれた。

たいしたことではないし、あれくらいのことはよくあることだ。
でも、こうして謝ってくれる人もいるんだと思うと、気持ちが楽になる。

だんだんと麻痺していた。
セクハラされること、門前払いされること、傷付かないように心が慣れてきた。
というか、無理やり、慣れるんだと言い聞かせていた。

私は、パンフレットを出し、説明しようと深呼吸。

緊張してなかなか声が出ずにいると、吉野さんが助けてくれた。

「社長、今は光触媒の時代なんですよ。これね、目に見えないウイルスとか除去してくれるんですよ。お孫さんの為にもご自宅用にもいかがです?」

「はっはっは~!自宅に?そりゃ、いいな。かわいい孫に風邪を引かせられないからな。しかし、お前なかなか詳しいな」

笑顔がチャーミングな社長さんで、全てが吉野さんと真逆な感じ。

丸顔、上がり目、低い声。

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