彼に惚れてはいけません

あの人、ジャケット脱いで、バサっと置いてたもんなぁ。

落としちゃったんだね、かわいそうに。
と、その場を去ろうとした時、また良心が私を突き動かした。

あのボールペンは、幼い彼の娘さんがパパに送った大事なものかもしれない。

私は、そのボールペンを拾い、店員さんに渡そうとか思った。

“K YOSHINO”と名前が彫られている木目調のボールペンで、見るからに高級だった。

私は、どうしてそんな行動を取ったのか、よくわからないけど、そのボールペンを店員さんに渡さずに、自分の鞄に入れた。

その方が、娘さんからの大事なプレゼントを彼に返せる可能性があるような気が、漠然とだけど、していた。



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