彼に惚れてはいけません
「なんだか、嬉しくて」
と私が言うと、ホッとしたように吉野さんが微笑んだ。
「俺も嬉しい」
鼻先をくっつけて、唇を重ねた。
「キスの途中で泣かれたの初めてだよ」
「ごめんなさい。幸せすぎて、涙が出るなんて私も初めて」
腰に手を回し、おでことおでこをくっつけて話していた。
「それって、俺達運命ってことじゃない?」
とまた、期待させるようなことを言う。
「吉野さん、好きになっちゃうよ」
これもまた自然に口から出てしまった。
「それは困るなぁ。俺は、追われると逃げるタイプだからな」
「もうっ!またそんなこと言って。でも、もう好きなんだもん」
「それはだめだなぁ。もうキスしてあげないよ」
「そんなのやだぁ!」
ラブラブしい空気。
付き合いたての中学生か高校生のような。
「して欲しいの?」
「うん。もう一回、して」
こんなことってある?
恋に恋していた私は、恋愛経験も少なくて、自分から告白することなんて一生ないと思っていたし、まして自分からキスをせがむなんて。
そういえば、最初のキスも、私からお願いしたんだった。
この人に出会ってから、私は変わってしまった。
こんなことって・・・・・・私が思い描いていた未来予想図の中に、これっぽっちもなかった。