彼に惚れてはいけません
「アイスフレーバーコーヒーのバニラ、お願いします」
目を細めたままそう言った吉野さんの表情が渋すぎて、目が離せなかった。
「で、由衣は?」
「あ、私も同じものでお願いします」
と言った後で、吉野さんの顔を見ると、また失笑していた。
「だからぁ、俺と同じもの注文するなって。好き好きオーラ出まくりだろ」
今日の吉野さんは、少しSバージョンらしい。
そんな吉野さんも私はとても好きだと思ったし、好きな人にここまで好きってことがバレている関係が楽だった。
「美味しそうだったんだもん」
私が頬をふくらまして言い返すと、またパパのような優しい眼差しで私を見つめた。
「今日は忠告しにきた。俺を好きになりすぎちゃいけないよって。俺は、君が思っているようなフランス紳士ではない」
「そんなことわかってる。よだれもおならもするし、嘘つくし、言ってることめちゃくちゃだし、変わり者・・・・・・それに」
と言葉を探していると、吉野さんは眉を下げて、申し訳なさそうに笑う。
「ふふ、そこまで俺を知っててどうして好きなんだよ」
「どうしてかなんてわかんない。でも一緒にいるとホッとするんだもん」
と言った後で、ホッとすると言った自分に驚いた。
だって、私はこんなにもドキドキして緊張しているのに、口から自然に出た言葉は“ホッとする”だったのだ。