彼に惚れてはいけません

「それって、褒めてるのか?男なのに、ホッとされてていいのか、俺」

頭を抱えて考え込む吉野さんを見ていると、本当にこの人ってつかみ所がないなってかわいく思える。

あんまり好きになるな、とか言いながら、好きでいて欲しいんじゃないのかな?

「ホッとする。安心する。全部受け止めてくれそうな気がする」

それは正直な気持ちだった。

大好きな片思いの相手なのに、一緒にいて何でも言えるし、自分のだめなところも見せちゃえるような。

「俺、全然受け止めないよ」

運ばれてきたアイスフレーバーコーヒーのバニラ味をストローで念入りに混ぜながら、吉野さんは冷たく言った。

「嘘つき」

私も真似して、念入りに混ぜながらジロリとにらむ。

「俺は人を受け止められるような大きな人間じゃない。だから、由衣が俺を受け止めろ」

突き放してるのか、甘えてるのかわからない人。

私の求めている言葉は絶対にくれないのに、一緒にいて居心地がいいのは何故なんだろう。

「私、受け止められるかなぁ。こんな意味不明な人」

「はっは。正解!俺、ほんと意味不明だから」

と笑った拍子に、組んでいた足が私の足に当たった。

その時に、ほんのり顔が赤らんだ気がしたのは、突っ込まないでいてあげよう。


「ごめん」と珍しく普通に謝って、足を組むのをやめた。

こういう普通っぽい部分を見ると、なんだか笑っちゃう。


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