彼に惚れてはいけません

「それより、由衣。今度、俺んち来る?」

飲み終えたコーヒーの氷をすくって口に入れる吉野さんの横顔を見つめていると、驚くことを言われた。

俺んち?
俺んちって吉野さんちってことだよね。

もう、わかんないーーーー!!


「こういう時は、断るのが正解なんだよね?」

と私が言うと

「自分の素直な気持ちを大事にするのが、正解」

と、また私の頭を混乱させるようなことを言う。

素直な気持ち・・・・・・

私は頭を冷やそうとコーヒーを飲み、深呼吸をした。



「行きたいけど、私は彼女でもないし家に行くのはダメじゃないかなって思う。だけど、そんなこと全部関係なく、自分の素直な気持ちだけを言えば、めちゃめちゃ行きたいってのが本音です」


自分の気持ちを正直に話すっていうことを、人生でこれまでやってこなかったんだなってしみじみ感じる。

私だけじゃないと思う。

みんな相手の様子を伺いながら、仮面をかぶり、本心じゃないことを言う。

それが普通だって思ってる。

吉野さんに出会わなければ、そんなことを考えずに生きていたかもしれない。



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