彼に惚れてはいけません
「な~んてな。影のある男風なこと言ってみた」
と吉野さんは誤魔化したけど、それが冗談だとは思えなかった。
箱庭カフェといい、今のセリフといい、吉野さんの心の中に何かあるのは事実だ。
その何かわからないものを、私なんかが触れていいのかわからないし、踏み込んでいいものかわからない。
でも、いつか
時間がかかってもいいから、その何かを取り除ける存在になれたら、と思う。
「何、真面目な顔してんだよ。よく見たらお前、猫っぽいな」
そう言うと吉野さんは右手をそっと私のあごの下に入れ、猫をあやすように指を動かした。
「にゃ~ん」と言ってみた私に、吉野さんは笑うかと思ったのに、真剣な顔をしたまま、あごをコロコロし続けた。
「猫だったら、俺が飼ってやるんだけどな」
切ない表情で、呟いた吉野さん。
「じゃあ、猫になる」
私は、心からそう思った。
猫だったら、そばにいられるの?
私が猫だったら・・・・・・愛してくれる?