彼に惚れてはいけません

「私は、裏切らない」

そんな言葉を信じてくれるわけがない。
まだ私達は、お互いのことを何も知らない。

「薄っぺらい言葉だな」
と吉野さんは冷たく笑い、なくなったグラスの中の氷をストローで突付いた。

「じゃあ、私は裏切る」

「おう、それでいい。正直者だ」

急に、冷めた目つきになった吉野さんは、腕組みをした。

「嘘。絶対裏切らないもん」

「言葉なんて信じない。裏切らなかった時に初めて、その言葉が本当だってことが証明される。だから、俺はそんなあやふやな言葉は言えない」

瞬きを忘れそうになる。

呼吸も出来なくなるほどの力強い目力に圧倒される。

「由衣みたいな小娘、騙すの簡単だけどな。俺も好きだよって抱きしめたら、お前なんかすぐ落ちる」

私は、人を見る目があるのかないのかわからなくなってきた。

確かに、もしも吉野さんに今、好きだよって言われたらその言葉が嘘でも信じてしまう。

「俺が守ってやるとか、俺が幸せにするとか、そんな言葉、信じるなよ。ヤりたいだけだから」

「私、すぐ信じちゃうから」

「だろうな。フランスなんか一人で旅したら、フランスのイケメンにすぐ声かけられて騙される。現実は映画と違う。映画はハッピーエンドかもしれないけど、その映画の2年後、3年後は、そんなハッピーじゃない。男だって、燃え上がってる時は何でも言えるけど、そんなの何年も続かないってこと。由衣の純粋なところは大事にして欲しいけど、現実もしっかり見れるようになって欲しい」

ものすごく、心の響いた。

私は、映画の中に生きている。

私の半分は、映画の世界で出来ているといっても過言ではない。

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