御曹司さまの言いなりなんてっ!
まるで自分のことのようにニマニマ笑いながら、瑞穂はチキンソテーを口の中に放り込む。
私も焼き魚の身をほぐしながら、なかなか気分が良かった。
社長夫人側の汚い工作が裏目に出たってわけか。うんうん、公正な世の中は、そうでなくちゃいけないわ。
いいぞいいぞ。頑張れ負けるな、『因果応報』。
「ただね、どうしても下馬評じゃ圧倒的に部長が不利なのよねえ」
「でしょうね。でも会長は部長の味方をしてくれているから、心強いわ」
「成実、そんなノンキなこと言ってられないのよ」
瑞穂はまた声のトーンを落とし、深刻な顔をこっちに近づける。
「社長夫人たちは今度のプロジェクトが終了したら、完全に会長を隠居させる腹づもりらしいわよ?」
「え!? じゃあ部長の味方はひとりもいなくなっちゃうじゃない!」
「だからさ、今度の仕事は絶対に部長の力で成功させなきゃならないの。そうやって自分の存在を確固たるものにしておかないと……」
「今度こそ部長は、確実に追い出されちゃう?」
「そういうこと」
私は焼き魚をつまんだまま、愕然としてしまった。
それじゃこのプロジェクトは部長にとって、まさに背水の陣なんだ。
私もなんとかして部長の力にならないと。でも資料読みばかりでほとんど戦力外な私なんかに、何ができるのかしら。
気ばかり焦っても何も思いつかずに、ただ早食いになるばかり。
ハイスピードでモグモグ咀嚼する私に、瑞穂は勇気づけるように言ってくれた。
「成実、頑張ってね。私も応援する。役に立ちそうな情報が入ったら速攻でそっちに流すから」
「ありがと、瑞穂」
「だからぜひ近いうちに、あたしを牧村さんに紹介してね!」
「…………」