御曹司さまの言いなりなんてっ!

 お昼を食べ終えた瑞穂と私は、社員食堂の出入り口前で手を振り合って別れた。

 持ち場へと向かうためにエレベーターへ乗り込む私の足取りは、セカセカと忙しない。

 さっき瑞穂からあんな話を聞いた後では、穏やかでいられないのも仕方なかった。


 重要な意味を持つプロジェクトなのに、たいした戦力になれない自分が恨めしい。

 いったい部長は私のどんな部分に着眼して、自分のパートナーに抜擢したというんだろう?

 そもそもの、そこが分からないものだから戦力になりようも無いわ。


 悩みながらエレベーターを降りた私は、課せられた仕事をこなすために真っ直ぐ給湯室に向かった。

 とりあえず、今の自分にできることをやるしかない。

 私は冷蔵庫を開けて中からジュースを取り出し、グラスに注いでお盆に乗せ、部長の元へと向かう。

 昼食後に部長へ飲み物をお出しするのが、午後一番の大事な仕事だからだ。


 今日の私は、心中期するものがある。

 気合いの入った胸を張り、表情を引き締めて扉をノックした。

「遠山です。お飲み物をお持ちしました」

「ああ。入れ」

「失礼します」


 中に入って一礼し、五人掛けソファーセットの応接コーナーの横をすり抜けて、部長のデスクへ向かう。

 大きな窓に背を向けて、シンプルだけど品の良い木製の平机の上で、部長がパソコンのキーボードを叩いていた。

 作業の邪魔にならないように位置に配慮して、私はグラスをデスクの上へ置く。
 
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