御曹司さまの言いなりなんてっ!

 部長の目がパソコンの画面からグラスへ移動するのを見て、私はほくそ笑んだ。

 ふふ。今日のは自信あるのよ。

 片っ端からネット検索して、評判をリサーチして、吟味に吟味を重ねたこの逸品。

 さあ、目の前の林檎ジュースを味わってみなさい部長!

 部長の手がグラスに伸び、無造作にジュースを飲む様子を、私は意気揚々と見守っていた。


「飲んでみろ」

「……え?」

「お前も、飲んでみろ」


 一口飲み終えた部長に、意味深な目をしながらグラスを突っ返された私は戸惑った。

 の、飲めと言われたって。だってそれ、部長が口をつけたグラスでしょう?

 という心の声が伝わったのか、意味深な目のままで部長はさらに促した


「そこも踏まえて、飲め」

「いや、でも」

「いいから飲んでみろ」


 ここまで強制されては断れない。

 私は言われた通りにグラスを唇に運び、コクリとジュースを飲み込んだ。

 うん、美味しい。さすが万人から高評価を受けるにふさわしい良いお味だ。

 ところでこれって、部長と間接キスしちゃったことになるのかしら?

 そう思って思わず頬を赤らめてしまう私に、部長はますます何かを期待するように質問してくる。
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