御曹司さまの言いなりなんてっ!

「どうだ?」

「どうって、素直に美味しいですけど」

「それだけか?」

「それだけって? ジュースを飲んで、他に何の感想が必要なんですか?」

「…………」


 穴が開くかと思うほど私を見つめていた部長が、そこでガクッと首を垂れた。

 そしてハア~ッと聞こえよがしに残念感たっぷりの溜め息をついて、「もう、いい」と言いながら、私に向かってシッシと手を振る。

 今日もまた繰り返されてしまったそのパターンに、私は叫び出してしまいそうだった。


 またなの!? また今日も不合格!?

 いったいあんたは、何を求めているのよ!?


 部長と一緒に仕事をするようになって真っ先に知ったことは、『実は部長は、かなりの林檎フェチだった』という意外な事実だった。

 彼が私に要求する飲み物は、必ずといっていいほど林檎ジュースかアップルティー。

 牧村さんには普通にコーヒーを頼むのに。

 そしてお茶請けには林檎ケーキや、林檎タルトや、林檎のコンポート等のアップルスイーツが必須アイテム。

 気分転換のガムやキャンディーに至るまで、彼にとっては林檎味でなければ意味がない。


 ひょっとしたら部長って、林檎の血が混じってるんじゃないだろうか?

 祖先をたどると林檎に行き着くとか。

 そんなバカなことを半分本気で考えてしまいそうになるほど、とにかくもう、部長の林檎への愛は半端ない。

 好きなら好きでそれは個人の自由だから一向に構わないんだけど、それを私に押し付けてくるのが問題で。
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