御曹司さまの言いなりなんてっ!
部長が林檎を味わう際には、必ず私もお付き合いをしなければならない。
そしてご相伴にあずかり、ふたり一緒に林檎味で口を満たした後で、彼は期待を込めた目で私を見つめてこう質問してくる。
『どうだ?』と。
いや、だから、どうだって聞かれても。
美味しいですって言う以外に何を言えばいいのよ?
なのにそう答える私に部長は落胆するばかりで、今みたいに露骨に期待を裏切られたような態度をとる。
もう、どうすればいいのか分からない。
きっと私が用意する品物が、部長の林檎愛を満足させる域に達していないのだろうけど。
祖先に林檎がいたような人が満足するほどハイレベルな林檎味って、どこを探せば見つかるの?
でもひょっとして私は、それこそを期待されて採用されたんだろうか?
部長は私の中に、林檎の本質を見極める才能か何かを感じ取ったのかしら?
そりゃあ私だって、できることなら部長のパワーの源になるような、立派な林檎味を見つけてあげたい。
でも、無理よ。だって私の祖先に林檎はいないもの。
「失礼しました」
敗北感に打ちのめされながら、グラスの乗ったお盆を手に私は部屋を後にした。
何の戦力にもなれないからこそ、せめてこんな形でも部長の役に立ちたいのに、毎回毎回失望させてばかりいる。
さっきの部長に負けないくらい大きな溜め息をついていたら、声をかけられた。
「今日もダメだったんですか?」
「あ、牧村さん」