御曹司さまの言いなりなんてっ!

 それは、確かにそうなのだろう。

 部長があの家族に対して素直に接しようものなら、とっくの昔に身ぐるみ剥がされて家から放り出されている。

 ましてや他人になんて、ストレートに向き合う気になれないのも無理はない。

 彼がなかなか自分の考えを口に出さないのは、身に沁みついた防衛本能のようなものだろう。


 本来なら3代目として悠々自適に暮らせる立場のはずなのに、しなくてもいい苦労を背負い込まされて、つくづく気の毒だと思う。

 しかも彼こそが正当な後継者なのに、この楽園のように素晴らしい会社から、理不尽に追い出されようとしているなんて。


「このプロジェクトがもし失敗したら、部長、マズいんですよね?」

「なにしろ会長悲願のプロジェクトですからね。誰かが責任を取らなければなりません。その場合に矢面に立つのは部長クラスが相応ですから」

「そもそも、なんで専務はこの仕事に部長を引き込んだんですか? 仲の悪い兄と一緒に仕事をするなんて変ですよ」

「失敗したら、これ幸いと部長に責任を押し付けるためでしょう。逆に成功したら、総責任者の自分が手柄を独り占めです。どっちに転んでも専務に美味しい話になっているんです」

「最っ低……」


 凡庸な顔つきで常に上から目線な態度のくせに、妙に卑屈に見える専務の姿を思い出して胸がムカムカする。
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