御曹司さまの言いなりなんてっ!
あれが次期社長になったら、まさに典型的な3代目バカボンボンになるのは目に見えている。
そうなったら一之瀬商事の身代が揺らぎかねない。
アイツはまさに、楽園に入り込んで壊滅的に環境を破壊し尽くす外来種みたいなものだわ。
「部長ご本人は、非常に優秀な方なんです。ただ周囲の方々が……」
「なんだ遠山、まだそんな所でウロウロしてたのか?」
話の途中で扉がカチャリと開き、部長が顔を出した。
私と牧村さんは慌てて口をつぐんで素知らぬ顔をする。
「早くグラスを置いて来い。もう会議が始まるぞ」
「あ、はい。今すぐに」
そうだ。これからプロジェクトの責任者会議が始まるんだった。
私も一応責任者のひとりに任命されているんだから、当然部長と一緒に参加しなければならない。
急いで給湯室に駆け込み、手早くグラスを洗って戻ると、廊下で部長が牧村さんと何やら話し込んでいる。
「じゃあ、この全国の素データのグラフ化を頼む。人口比率と商業年間商品販売額、それぞれの産業従事者数もな」
「はい。会議が終わるまでに仕上げておきます」
「動線も分かりやすいように明記しておいてくれ」
「はい。……ところで、部長」
「なんだ?」
「本日の会議には急遽、専務も出席されることになりました」
思わず『ゲッ!?』と声を出しそうになって、私はグゥッと空気を飲み込んだ。
部長は努めて無表情を装ってはいるけれど、一瞬で目付きが変わったのが分かった。