御曹司さまの言いなりなんてっ!
「……そうか」
ひと言、そう言っただけで部長は会議室へ向かって歩き出した。
私も後に続きながらチラリと背後を振り返ると、牧村さんが気遣わしげな表情をして私達を見送っている。
避けられないトラブルの予感がする。
雨が降る前の灰色の空のような、そんな重苦しさが私の胸に湧きあがっていた。
他部署の社員が忙しく行き交う合間を抜け、向かう会議場所は、あの場所。
入社試験の日に、私がプロジェクトの責任者グループに紹介されたあの会議室だ。
扉を開けるとあの日と同じ10人掛けテーブルに、あの日と同じく首から社員証を下げた責任者達が座っている。
違うのは、最奥に座っている人物の顔。
本来なら部長が座るべきその席に、凡庸な若い男が当然の顔をして座っている。
その男が、クイクイと座席を左右に回しながら小馬鹿にしたような声で言った。
「遅いよ、部長。遅刻」
「遅れて申し訳ございません、専務」
「ほんとに遅刻するのが好きな管理者だね。困ったものだ」
部長と一緒に頭を低くして謝罪しながら、私はすでに胃の辺りがモアッとしてくるのを我慢していた。
遅刻じゃないわよ。時計を見なさいよ。まだ時間前でしょう?
それでも部長は専務の嫌味をサラリと受け流し、席について会議を進行し始める。
「それでは早速、会議を始めるとしよう。その前に遠山、立て」
部長の言葉に、彼の隣に座っていた私は立ち上がった。