御曹司さまの言いなりなんてっ!
イブ。この世界で唯一の女。
あまりに突然で、強烈で、意味深なセリフに私の心は瞬時に捕らわれてしまった。
なんて甘美で、そして思わせぶりで曖昧なセリフだろうか。
この言葉のどこにも、私への明確な意思表示は見当たらない。
……この人はズルい。
イスに深く腰かけ、胸の手前で軽く両手を組み、私の反応を探るような目をしながら言う男を見ながらそう思った。
言葉の真意を知りたければ、私の方から彼へ向かって踏み込まなければならない。
罠を仕掛けて相手が嵌るのを待ち構えているような男のズルさに、私は軽い苛立ちすら覚える。
だけど、この人に面と向かってそんなセリフを言われて、動揺しない女がこの世にいるだろうか?
罠と分かっていても、仕掛けられて嬉しいと思わずにいられる女が存在するだろうか?
この場をどう切り抜けようか考えあぐねる私は、部長と無言のまま見つめ合っている。
だめだ。どう考えてもこっちが不利だ。
まるで真剣勝負なようなこの場面に、目の前の男はあまりに魅惑的過ぎる。
私は胸に抱きかかえていた種類をドサリと部長の机の上に置き、一礼した。
「……失礼しました」
「おい、どこへ行くつもりだ?」
「ヤボ用です」
「だめだ。ここから出ることは許さない」
部長は手を伸ばし、いきなり私の手首をキュッと掴んだ。
彼の体温と手の平の感触が、手首の皮膚を通して生々しく伝わってきて、私の胸はドキンと高鳴る。
彼はまるで、私の退路を断つように言葉を続けた。
「お前は、ずっと俺のそばにいろ。前にも俺はお前にそう言ったはずだ」