御曹司さまの言いなりなんてっ!
禁断の実の成る地
「おおぉ! これだよ! この風景だよ!」
「本当に素敵な景色ですね。会長の故郷って」
感嘆の声を上げる会長の隣に立ちながら、私も目の前に広がる風景の美しさに胸を弾ませていた。
空港からレンタルした車で延々と走り続け、ようやくたどり着いたここは三ツ杉村。
汗ばんだ体を冷ますように吹く風は涼しく、見上げる空は透き通るように青く、夏の入道雲は真っ白に輝いている。
高いビルに遮られることのない、果てまで見渡せる景色の奥にそびえるは濃緑の山の峰。
そして山のすそ野に広がるように地を覆い尽くす、木々を彩る赤い果実。
「すごいわ。林檎園があったんですね」
「この三ツ杉村はね、林檎が特産なんだよ。ここの夏林檎は実に美味いよ」
レトロな麦わら帽子を被った会長の目が、自慢そうに輝いている。
収穫の時期を迎えた見渡す限りの林檎が、夏の日差しを浴びて艶めく様は赤い宝石のようだ。
ああ、空の青。雲の白。山と地の緑。そして、果実の紅。
圧倒的な自然のスケールと、それらが生み出す色彩の鮮やかさと、風が運んでくる土と緑の匂いがムンムン迫ってくる。
「まさに絶景ですね! 胸がいっぱいになりそう!」
「そうだろうそうだろう? 成実ちゃんならこの良さを分かってくれると信じていたよ」
セミの鳴き声に混じった会長の声は、本当に嬉しそうだ。
万感迫る表情でぐるりと周囲を見渡す目には、うっすらと涙が滲んでいる。
会長はラジオ体操みたいに大きく胸を反らして息を吸い込み、ぷはぁっと吐き出して、背後の孫に笑顔で話しかけた。