御曹司さまの言いなりなんてっ!
「直哉、直一郎、どうかね? ここが私の生まれ故郷だよ」
「いつ来ても美しい所ですね。ここは」
「向こうに比べると、やっぱり涼しいですね。……ちょっと道路は歩きにくいですけど」
専務は舗装されていない砂利道が歩きにくそうで、さっきからずいぶん難儀しているようだ。
本当に生粋の都会っ子なのねえ。
歩くとザクザク音が響く砂利道の左右には、自然に育った植物がずっと先まで生い茂り、まるで天然のガードレールのように見えて面白い。
「これだけ草木が豊富なら、きっと虫も多いでしょうね。蛍とかいるのかしら」
「蛍どころかヘビも出るぞ。ここは」
「え!? 虫!? ヘビまで出るのか!?」
部長の言葉に専務はビクッと怯えて、足元をキョロキョロする。
そんな孫の反応に笑いながら、会長は林檎園で草刈り作業している人に向かって声を張り上げた。
「どうもどうもー! ご精が出ますねえ!」
「こんにちは。一之瀬商事です。相馬さん、お元気でしたか?」
「あー、あんたかあ。また来たのかあ?」
どうやら部長は、ここの林檎園の人とすでに顔見知りらしい。
腕に抱えていたスーツの上着を着こみながら、作業着姿の相手に手を振って挨拶している。
部長ったら、この真夏にきっちりスーツの上下を着こんで、田舎道に革靴を履いて。
どんな田舎の仕事相手に対しても、きちんと敬意を払っているのね。彼のそういう誠実なところってすごく……。
私の胸がキュンと鳴って、トキめいてしまった。