御曹司さまの言いなりなんてっ!
「咲いた花の全部に実が成ったら、とんでもないことになるからな。樹の勢いや土地の状態に応じて、適正な数になるように調整するんだよ」
「部長、ずいぶんお詳しいんですね」
「いや、付け焼き刃だよ。たまにこっちへ顔を出して作業を手伝うくらいだ」
「忙しい時は、猫の手も借りたいほどだからなあ。あんたのおかげで助かった」
「猫程度にはお役に立てたようで、安心しました」
笑い合う部長と相馬さんを見ながら、私の胸はまたポッと火照り始める。
部長、きっと林檎について一生懸命勉強したのね。
彼の真剣味溢れる林檎への愛着は、そこからきているのかもしれないわ。
おまけに忙しい仕事の合間を縫って、農作業の手伝いにまで駆けつけるなんて。
地域の人の信頼を得るために、これまで最善の努力を重ねてきたのね。
彼のそういう、努力家で苦労を厭わない姿勢ってすごく……。
……だ、だから、ダメだってば!
トキメキ禁止って決めたでしょう!
「あんたら、今日はあの古民家に泊まるんだって?」
「ええ、もう電気も水道も通ってますからね」
「ヒマだったら、また手伝いに来い。中生品種や晩生品種の作業も山積みだからなあ」
そう言って相馬さんは、また草刈り作業に戻っていった。
私たちの今日の宿泊場所は、例の古民家再生ペンションだ。
従業員はまだ雇ってはいないから本格的な利用はできないけれど、泊まった感触を確かめるくらいのことはできる。