御曹司さまの言いなりなんてっ!
目的地の湖へ向かうため、私たちはレンタルした車を置いてある近くの駐車場まで歩いて戻った。
会長と専務が乗ってきた車と、部長と私が乗ってきた車と、2台。
その1台に近づきながら、専務が部長と私に言った。
「じゃあ、これから僕とお祖父様は予定通り町のホテルへ行くから。また明日」
「はい。お祖父様、専務、それではまた明日」
「……え?」
私はキョトンとして3人の顔を見回した。
それ、どういうこと?
「町のホテル? 今日は古民家に泊まるんじゃなかったんですか?」
「泊まるさ。俺とお前だけでな」
「は? 部長と私? だけ?」
さらにキョトンとする私に、専務が呆れたような目で説明する。
「従業員のひとりもいないような場所に、お祖父様を泊められるわけがないだろう? 山小屋じゃあるまいし」
「お祖父様も高齢だからな。近くに大きな病院がないと不安なんだ」
「だから僕が、お祖父様と一緒に町のホテルに泊まるんだ。当たり前だろう?」
「では専務、お祖父様をよろしくお願いします」
「ああ、じゃあそっちはよろしく頼む」
部長と専務の会話を聞いている私の顔が、どんどん青ざめていく。
当たり前って、ちょっと!?
なにお互い勝手によろしく頼み合ってるわけ!?
そんなの聞いてないわよ! じゃあ私、部長とひとつ屋根の下でふたりっきり!?
ほ、本当に、ふたりきりのお泊り旅行になっちゃったの!?