御曹司さまの言いなりなんてっ!
「いえ皆さんちょっと待ってください! それは少々、問題ではないでしょうか!?」
私は慌てて異議を申し立てた。
こんなの冗談じゃないわ。トキメキ禁止令の相手と、ふたりきりで一晩を過ごすなんて。
絶対にヤバい! なんとしても阻止しなきゃ!
「若い男女がふたりきりで宿泊というのは、道徳的に問題があると思います!」
「だからって、お祖父様をひとりにするわけにはいかないだろう」
「じゃあ私が会長にご同行すればいいんじゃないですか!? 常識的に考えて!」
「仮採用の平社員が、専務である僕を差し置いて会長と同行するつもりか? おいおい、常識で考えろよ」
常識が無いのは、あんたの方でしょ!?
あんたは絶対、自分が快適なホテルに泊まりたいだけに決まってる!
と大声で叫び返したいのをグッと堪え、私は努めて冷静に答えた。
「それでしたら、私と会長と専務の3人でホテルに……」
「おい、遠山。それじゃお前は俺を放ったらかしにするのか? お前は今回、俺の秘書役だろう?」
「そ、それは……」
ウッと言葉に詰まった私に、部長はたたみ掛ける。
「それに、ホテルの部屋にもう空きは無い。今は夏休みだからな。お前は俺と一緒に泊まるしかないんだよ」
「成実ちゃん、申し訳ないねえ。私だって本当は、可愛い成実ちゃんと一緒のホテルに泊まりたいんだけどねえ」
すまなそうに言う会長を、私は情けない顔で見返した。
そんなぁ、会長。
ここでこそ、いつものあなたのゴリ押しパワーを発揮すべき時なのに。