御曹司さまの言いなりなんてっ!

「いえ皆さんちょっと待ってください! それは少々、問題ではないでしょうか!?」

 私は慌てて異議を申し立てた。

 こんなの冗談じゃないわ。トキメキ禁止令の相手と、ふたりきりで一晩を過ごすなんて。

 絶対にヤバい! なんとしても阻止しなきゃ!


「若い男女がふたりきりで宿泊というのは、道徳的に問題があると思います!」

「だからって、お祖父様をひとりにするわけにはいかないだろう」

「じゃあ私が会長にご同行すればいいんじゃないですか!? 常識的に考えて!」

「仮採用の平社員が、専務である僕を差し置いて会長と同行するつもりか? おいおい、常識で考えろよ」


 常識が無いのは、あんたの方でしょ!?

 あんたは絶対、自分が快適なホテルに泊まりたいだけに決まってる!

 と大声で叫び返したいのをグッと堪え、私は努めて冷静に答えた。


「それでしたら、私と会長と専務の3人でホテルに……」

「おい、遠山。それじゃお前は俺を放ったらかしにするのか? お前は今回、俺の秘書役だろう?」

「そ、それは……」


 ウッと言葉に詰まった私に、部長はたたみ掛ける。


「それに、ホテルの部屋にもう空きは無い。今は夏休みだからな。お前は俺と一緒に泊まるしかないんだよ」

「成実ちゃん、申し訳ないねえ。私だって本当は、可愛い成実ちゃんと一緒のホテルに泊まりたいんだけどねえ」


 すまなそうに言う会長を、私は情けない顔で見返した。

 そんなぁ、会長。

 ここでこそ、いつものあなたのゴリ押しパワーを発揮すべき時なのに。
< 133 / 254 >

この作品をシェア

pagetop