御曹司さまの言いなりなんてっ!
「なんだよ、さっきの態度は」
「な、なんのことですか?」
「お前、そんなに俺と一緒に泊まるのが嫌なのか?」
座った目付きで私を見ながらぶっきらぼうに吐き捨てる部長は、なんだかいつもと雰囲気が違って見える。
会社で仕事をしている時とは違って、ずいぶんと砕けた態度で私に近づいて来た。
そして長身をぐいっと曲げて、私と顔を突き合わせる。
「……!」
あまりの急接近にオデコ同士がぶつかりそうになり、息を詰めた私はとっさに一歩、身を引いた。
「逃げるな」
すかさずまた一歩、部長が近づき額をグッと寄せてくる。
ちょ……! 顔、顔近すぎ!
心の中で悲鳴を上げるも声にはならず、この異常な急接近に私の心臓は高鳴り、見惚れるほど綺麗な彼の瞳に釘付けになってしまった。
部長の吐息を生々しく感じて胸がキュッと苦しくなる。
自分の顔が、恥ずかしいくらい一気に赤くなるのを止められない。
「正直に答えろ。お前、俺と泊まるのが嫌なのか?」
「…………」
「答えろ。嫌なのか?」
部長の唇が動くたびに、彼の吐息が私の唇に触れる。
これではまるで、疑似キスだ。
私の視界は、男の美しい顔で覆われてしまっている。
私の耳も、男の魅惑的な低い声に占領されてしまっている。
顔は燃えるように赤く染まり、苦しい胸の鼓動の音は外まで漏れ聞こえそうなほどに激しい。
この状況では、ムダな抵抗だ。
今の私が何をどう言い繕ったところで、嘘だとばれてしまうだろう。
だから、正直に言うしかなかった。
「嫌じゃ……ない、です……」