御曹司さまの言いなりなんてっ!
ドサリと座席に座り込まされながら、それでも私はすかさず部長を睨み上げた。
負けるもんですか。こんな不当な扱いを黙って受ける『遠山の金さん』じゃないわよ。
機関銃のように文句を連発してやろうと身構える私の視線を、部長は上から平然と受け止めて、静かに言った。
「お前は、俺と泊まることを自分で選んだんだ。……後悔するなよ?」
私の心臓が大きくひとつ、波打った。
さっきまでの少年のような表情とは打って変わって、部長は私を真面目な顔で見つめている。
私は呪縛されてしまったように体から力が抜けて、また頬に赤みが差す。
それ……どういう、意味?
部長は助手席のドアを素早く閉め、動揺する私を車内に閉じ込めてしまう。
そして運転席に座り込み、何事もなかったように「おい、シートベルト締めろ」と言いながら車を走らせ始めた。
抵抗する意思を削がれてしまった私は、素直にシートベルトをカチッと締めてしまう。
そして借りてきた猫のようにお行儀良い姿勢で、ちんまりと部長の隣に座っていた。
車外の風景は美しい林檎園と、よく晴れた青空と、目に穏やかな豊かな緑がどこまでも続いている。
でも私の心中は、まったく穏やかじゃなかった。
「あ、あの……」
「なんだ?」
「部長、さっき言いましたよね?」
「なにを?」
「私と、その、そういう不道徳なことをするつもりはないって」
「ああ、確かに言った」
「ですよね? そう言いましたよね?」
「ああ。だから『不道徳なこと』は、するつもりはない」
「…………」
じゃあ……なにをするつもりなんだろう……。