御曹司さまの言いなりなんてっ!
ペンション横の駐車スペースに車を停めて、部長と私はいよいよ古民家の中へと入った。
「わあ……」
玄関に入った途端、建築に使われた新しい木材の良い香りがふわりと鼻腔をくすぐった。
部長の言った通り、中は廊下に沿った大きな窓や中庭から入る光のおかげで、本当に明るい。
漆喰調の白い塗り壁や、障子や、古くて黒い柱の煤けた感じがレトロで優しい雰囲気を醸し出している。
「古さと新しさが混在していて、なんだかホッとする感じです」
「味があるだろ? じゃなきゃわざわざ古民家を再生する意味が無いからな。ほら、カギ。ここがお前が今日泊まる部屋だ」
そう言って部長が案内してくれたのは、板張りの小部屋だった。
フローリングでベッドが置いてあるけれど、襖があったり窓枠が木枠だったり、照明に和紙を用いていたりで、随所に細かく和風テイストが生かされている。
「俺は隣の部屋に泊まる。さあ、荷物を置いたらすぐに出かけるぞ」
「どこへ行くんですか?」
「役場へ顔を出すんだよ。もうすぐ始まる夏祭りの打ち合わせにな。今年の祭りは我が社が協賛しているんだ」
「へえ、お祭りがあるんですか!」
「思い切り盛り上げるぞ。このイベントの結果いかんによって、プロジェクトが波に乗るかどうかが決まるんだ」
「はい。わかりました」
「……でもその前に、一緒に湖の周りを散歩しないか? せっかく来たんだからな」