御曹司さまの言いなりなんてっ!

 娯楽施設がないから若い人は魅力を感じないだろうし、定着しない。

 若い人がいなければ子どもが生まれないから、どんどん過疎に拍車がかかるというわけだ。


「でも娯楽や利潤や利便性だけが魅力じゃないし、それだけで人は幸せにはなれない」


 部長の言葉に、私は社長一家の面々を思い出した。

 地位や名誉や立場に固執して、何か大切なものを忘れてしまっている人たち。

 それでもやっぱりあの場所はとても魅力的だし、彼らがしがみ付くだけの大きな価値も意味もある。

 だってあそこは楽園だもの。

 だからこそ部長だって、あの楽園から追い出されないために懸命に努力して……。


 あ、あれ……。


 私は突然、なんだか奇妙な感覚に襲われた。

 気のせいか体がフラフラ揺れているような気がする。あら大変。地震かしら。

 でもちょっと待って。地面が揺れているというより、私の頭の中が揺れているような?

 なんだろう。この感覚って、確か遠い昔にも体験したような……?


 その疑問の答えが見つかる間もなくグラァッと眩暈がするのと、ふらあっと体が前のめりに倒れるのと同時だった。

 とっさに部長が支えてくれなければ、きっと私は顔面から地面に激突していただろう。

「おい! 急にどうした!? おい!?」

 部長の慌てた声が、なんだか遠くに聞こえる気がする。

 胸の辺りがムカムカするのは吐き気かしら? うん、すごく具合が悪いわ。

 あ……。わかった。これって……。


「熱中症だわ……」

「嘘だろ!? お前、またか!?」

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