御曹司さまの言いなりなんてっ!

 吐き出すように意味不明な言葉を叫んだ部長の行動は、素早かった。

 フワッと体が浮く感じがして、私は彼の腕に軽々と抱きかかえられる。

 うわぁ、お姫様抱っこだと思った瞬間、彼は颯爽と古民家へ向かって走り出した。


「毎回毎回、いい加減にしろよまったく!」


 振動と部長の体温を感じながら、私はグッタリしていた。

 なんだか部長が、さっきから意味不明なことを言ってる気がする。

 毎回毎回って、なによそれ。

 まるであたしが熱中症になるのが趣味みたいな言い方しないで。

 私が熱中症になったのはね、高校生の時に一回切り。

 人命救助でファーストキスを見知らぬ男の子に奪われた、あの一回だけなんだから。


「まずは涼しい場所で休むんだ!」

 古民家に駆け込んだ部長は、私を抱きかかえた状態で一目散に私の部屋に向かう。


「おい、カギは!?」

「あ、大丈夫です。かけてませんから……」

「大丈夫じゃない! もっと警戒心を持て!」


 ドアを蹴破るような勢いで開けた部長は、私をそっとベッドに寝かせてくれた。

「待ってろ! 飲み物を探してくる!」

 バタバタと部屋から駆け出していく足音を聞きながら、私は涼しい室内に横たわってボーッとしていた。

 油断したわ。エアコンの効いた車内だと思って、ずっと水分補給を怠っていた。
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