御曹司さまの言いなりなんてっ!
夏の車内は乾燥するし、窓から入り込む陽射しで体温が上昇しているから、隠れ熱中症になりやすいんだった。
ずっと部長の隣で緊張してる時に、グビグビ水分補給する気にはなれなくて、つい。
「冷蔵庫の中に林檎ジュースがあった。これを飲め」
「あ……すみません……」
慌ただしく戻って来た部長の腕には、たくさんの林檎ジュースの缶の山。
その山をベッド脇のサイドテーブルに置くのももどかしく、彼は私の体を抱き起こし、その内の一本を私の手に押し付けた。
私は部長の腕にしっかりと背中を支えられながら、ゆっくり缶に口をつけてひと口飲み込む。
爽やかな甘みと酸味が、心地良く喉を潤してくれた。
「おいしい……」
体が渇いているせいもあるだろうれど、本当に沁みるように美味しく感じるジュースだ。
夢中で飲み続ける私を、部長がひどく真剣な顔で『大丈夫か?』と凝視している。
あまりに心配そうな彼の様子に、私は軽く微笑んで答えた。
「大丈夫です。まだ初期症状ですから、水分補給して休めば回復します」
「本当に平気なのか?」
「はい。私、熱中症には詳しいんです。実は経験者なんですよ」
もうひと口ジュースを飲み込みながら、私は部長を安心させようと打ち明けた。
「高校生の頃、道端で引っくり返っちゃったんです。偶然通りかかった男の子が助けてくれたんですよ」
「…………」
「どこの誰だか知らないし、顔も覚えてないんですけど、おかげで助かりました。でもまあ、その子も結構ヒドイ奴で。相応の代償を奪われましたけどね。アハハ」