御曹司さまの言いなりなんてっ!

 そんな私の顔を見た部長はますます仏頂面になって立ち上がった。


「その様子ならどうやら大丈夫そうだな。とにかく今は、しばらく休んでろ」

「部長、どちらへ?」

「俺がいたら休めないだろ? 俺も疲れたし、隣の自分の部屋でちょっと休む」


 そう言って本当に疲れた表情でドアに向かい、部屋から出る間際にこっちを振り返る。


「おい、水分補給はちゃんと……」

「はい。わかってます。大丈夫です」

「じゃ、また様子を見に来る。後でな」


 パタンとドアを閉め、部長は部屋から出て行った。

 彼の姿が見えなくなっても、私は彼の姿を目で追うようにドアを見続けている。

 そして小さく息を吐いて、コクリとジュースを飲み込んだ。


 部長が、あの時の彼。部長が……。


 これは、この再会はどういうことなんだろう。

 まるで運命みたいじゃないか。

 命を救ってくれた、ファーストキスの相手と10年後に再会だなんてロマンチック過ぎる。

 少年だった彼の唇の記憶と、大人になった今の彼の顔が重なって、私の頬は火照り出した。

 私……部長と、キスしちゃったんだ……。

 自分の唇をそっと指でなぞり、ドキドキする胸を押さえ、私は熱く切ない息を吐いた。

 この設定じゃ、どうやったって彼に惹かれるのは抗いようのない定番コースだわ。

 好きになるのを、どうして止められるっていうのよ。
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