御曹司さまの言いなりなんてっ!
そして、ふと思い至った。
まさか入社試験で部長が、私をひと目で採用したのはこのせい?
彼もこの再会に運命を感じた?
そして、彼も私のことを……?
そう思うと胸のドキドキがさらに激しくなって、たまらなくなった。
罠を仕掛けて相手が嵌るのを待ち構えているような、彼の狡猾な瞳を思い出す。
強引に私をここへ泊まらせるようにした、子供じみた可愛い行為も。
10年前の彼と今の彼が違和感なく繋がって、あの頃からずっと私たちの関係は続いていたように思えた。
まるで連続ドラマみたいに、シーンは続いている。
そしてこの先、どんな展開が待っているんだろう。
私はもう一本ジュースをゴクゴク飲んで空にして、ドサッとベッドに身を横たえた。
柔らかくて肌触りの良い夏掛けを頭から引っ被る。
ああ、なんてことなの? 私は期待してしまっている。
逃げるが勝ちと思っていた彼との関係を、ワケありで複雑で面倒で、おまけに強引な上司との関係を期待してる。
同時に、松の廊下のトラウマシーンが脳裏に甦った。
絶対に平穏無事では済まないわ。トラブルの予感がする。危険を知らせるアラームが頭の中で鳴り響いている。
だけど……そうよ、私は知っている。
嵐のように訪れる出来事に対して、自衛策なんて無い。
成すすべも無く受け入れるしかないんだわ。
でも、どうしよう。ハマッちゃだめよ。ダメなのよ。
私は夏掛けの中で混乱しながらギュッと両目を瞑る。
そうして頭の中の部長の姿を見ないようにと、必死に無駄な抵抗を続けていた……。