御曹司さまの言いなりなんてっ!
「元気だったが? 一之瀬さん」
「はい、おかげさまで。あの、ところで今日はどうされたんですか?」
「あんたのお連れさんが倒れたって聞いてさ、見舞いさ来たんだぁ」
「どなたから聞いたんですか?」
「三丁目の源太郎さんから」
……だから、三丁目の源太郎さんって、誰!?
なんで会ったことも見たこともない人達が、私が倒れたこと知ってるの!?
恐るべし、田舎の情報収集能力!
「あんた達、今日はここさ泊まるんだべえ? 晩メシどうすんだ?」
「町に行って、コンビニでお弁当でも買おうかと思っていますが」
「だめだよー、あんた。病人にそんなモン食べさせちゃー」
孫を叱るような口調で言った小林さんが、手に持った紙袋を突き出す。
「わいらが、おかず作って持ってきたから。あんた、これ食べて元気出しなさい」
「あ、ありがとうございます。いただきます」
頭を下げて受け取った紙袋の中には、タッパーに入った手作りのお惣菜がたくさん。
これ、私のためにわざわざ作って持ってきてくれたんだ。
右手に林檎を、左手にお惣菜を持った私の心がじんわり温かくなる。
見ず知らずの私のためにここまでしてくれるなんて、なんて親切な人達なんだろう。
そう思う私の頭は、自然に何度も何度もお辞儀を繰り返していた。