御曹司さまの言いなりなんてっ!
「本当に嬉しいです。ありがとうございます」
「皆さん、遠山のためにありがとうございます。私からもお礼を言わせてください」
「いいのさぁ。一之瀬さんだって、わいらのために一生懸命してくれてるもの」
「こんな男ぶりの良い兄さんに、わいの手料理食べてもらえるんだから、こっちだって嬉しいさぁ」
「あれぇ、わい、一之瀬さんに会うのに口紅のひとつも塗らねえで来てしまった」
アッハッハッと、おばあちゃん軍団の明るい笑い声が響く。
私も部長も一緒になって笑った。
そして来た時と同じように賑やかに婦人会の皆さんが帰って行くのを、その背中が見えなくなるまで、揃って頭を下げながら見送っていた。
「皆さん、親切な方ばかりで感動しました。ここって本当に素敵な村だわ」
「そうだな。まさかここまでしてくれるなんて、正直思わなかった」
「部長のこと、皆が信頼してくれているんですね」
私は両手の袋を持ち上げながら、笑って言った。
「この重さは、部長のこれまでの努力と誠意の証なんですね」
私の言葉に、今度は部長が両目をパチパチさせる。
そして照れたように下を向きながら、喜びを隠しきれない様子で唇の両端を緩ませた。
そんな部長を見て、私の心もほっこりと温かくなる。
ほんと、この人って普段はぜんぜん素直じゃないくせに、たまに感情を表に出す時はこんなに良い顔するんだからなぁ。
反則だわ。ズルイ男め。
そんな私の心中も知らず、部長は照れくさそうに咳ばらいしながら袋に手を伸ばす。
「重いだろ? 寄こせよ。持ってやる」
「嫌ですよぉ。これ、私がいただいたお見舞い品なんですから私の物です」
「おい、これは俺の努力の賜物だろ? 半分寄こせ」